結局そこに住まいしたのは精々三か月程度だった。新たな住まいは小石川だった。同じ不動産屋で適当なところを探してもらった。半ば緊急避難でもあったからこっちは大変だったが不動産屋は良い商売だったろう。頭がカッカしていたので髪の毛のことなど本当に頭の中の片隅にしかなかった。
敷金を返してもらってこの件は終わりだが、その件は不動産屋は介入しないとのことで直接大家に電話を入れると、案の定畳のへこみにケチをつけた来た。私はそれとは関係ない。へこみは入居時からあったもので、本当はそのことを知っているのだろう。そう言い返してとにかく敷金は全額返してもらった。壁に貼り付けた髪の毛に関しては黙っていた。大家も何も言わなかった。今となっては果たしてどう思っていただろうと思うが…。
これでアパートとは縁が切れた。ひと騒動だったが、時間が経つと髪の毛のことが多少気にはなり始めたが、奇妙なことがあるものだと思う程度で済ませてしまった。事実上どうしようもないのだ。ずっと後から考えると壁に貼り付けなどしないで持って出れば良かった。どこかで調べてもらえたかもしれない。
そんな風にも思ったが、いったいどこでそんなものを調べてくれるのか。金だって結構かかるかも知れない。だいいち、話を信じてくれるはずもない。放置するよりなかったのだ。それに、当時私はもっと重大な問題を抱えていた。親元の事業が行き詰っていて、頻繁に仕送りをしてくれと泣きつかれていた。親を見捨てるか否かに直面していた。結果的に私は、自分がどうにか食える分以外の一切を親元に仕送る暮らしを以後もずっと続けるのだった。この解決にはかなりの時間を有した。現実の問題の大きさを思うと、髪の毛のことなど基本的にどうでも良いことだった。
起きたことは物理的にあり得ない。私はスピ系を直ちには信じないが、あの部屋には何らかの事情があったのかも知れない。解けないままの謎になっている。これが、もし--視える--と言う人があれば、そんな期待もしてしまったのだ。別記事で書いている視えるという女性にも、それなりの期待をした。
完全に外れてしまったが…。
0 件のコメント:
コメントを投稿