2024年4月28日日曜日

隣人たちの不気味--3

引っ越しの荷物をどうにか運び入れてひと息吐いたら向かいの奥さんが庭仕事をしているのが見えた。直ぐに出て行って挨拶をした。丸顔の可愛い顔した奥さんだった。奥さんはこちらの挨拶を受けてこう言った。

「この辺は煩くて大変ですよ」

ちょっと困り顔だった。笑顔になれない事情があったのだが、それ程深刻には受け止めなかった。しかし徐々にそれは見え始めた。

中古の購入だったので家の下見をさせてもらう。一般的なことで、私たちもそうした。中古と言っても家が新品同様なのでそちらに心を動かされた。しかし二軒隣から犬が吠え続けていて気になった。その事を問うてみたが--いつもは静かだ。今日はなにかあってのことでしょう--とさり気なく答えた。

一時犬が吠えるくらいはどうってことないか。そんな風に思った。入ってみるとそれが違った。ほぼ毎日吠え続けているのだった。

一方、夜十時以後は風呂に入るなといきなり注文を付けた右隣り(吠える犬はその更に右隣り)も、実はかなりややこしい一家だった。倅がろくに学校にも行かず不良グループに入って何度も警察沙汰になっているようだった。この倅が、夜の夜中に不良どもと家の前でたむろしてタバコを吸いながら朝まで何かやっている。 その吸い殻を当家の庭に投げ込むのだった。

やられたと思った。つくづく人間が甘いのだった。

2024年4月20日土曜日

隣人たちの不気味--2


越してきた当初、私は都内で仕事を継続していて両親と兄が先に住むことになった。 ローンと家賃が重なるので不経済だったが、それでも仕事の都合上都内に居るメリットがあった。兄はホテルの夜勤で一日置きに都内まで通うことになった。その間は老いた両親だけになる。

二人が揃って近所へあいさつに出向いたら、右隣りの主婦からいきなり言われたそうだ。夜十時を過ぎたら風呂を使わないでくれ。

なんでも亭主が観光バスの運転手で、早朝出勤だそうで早い時間に寝ているからと。

この主婦を、荷物を運び入れている時にちょっと見かけたのでその時私も一応の挨拶をしたが、歯の出っ張った不良姉ちゃんのような顔立ちだった。さすがに大人だからガキ娘のような尖り方はしていないが、少々私の気持ちに翳りが生じた。これが隣りか…。

それにしてもいきなりな言い様だ。それを嘆く電話が母からかかってきて、左隣もなんだか様子が変だと不安気な声だった。

どう変なのか、その時はまだ漠然としていた。後々それ程の苦労をするとは夢にも思わなかった。

2024年4月14日日曜日

隣人たちの不気味--1



襲ってくるのに姿が見えない。これはやっぱり嫌な存在であることには違いない。だが、不思議なことに私にはそれらしい恐怖を今もって感じられない。精々膝がしらを切られた程度で大きな被害がないせいもあるし、以後継続している訳でもない。その時でさえ、何が起きているのか全然ピンと来なかったせいもあるだろう。

やはり怖いのは、現実に物理的作用を及ぼせる生きた人間の方だ。しかも表面上はごく普通を装っている。

私が今の住まいに越してきた当時、まだいくらも経たない内にこれはミスったと思った。七軒ずつ背中合わせに建っている区域だが、その内五軒は、ちょっと変だと直ぐに分かった。しかも明らかに異常だと思う世帯が当家と接していた。両隣と裏隣り。ほぼ新品に近い、従って殆ど値引きのしない中古を購入したのだが、売り主に完全にしてやられたようだった。

一応事前に周辺を歩いてみたりもしたのだが、特別異常があるようには見えなかった。しかし、甘かった。早く決めたいとの思いが強くて、あまり値引き交渉もしなかったし、踏み込んだ調査もしなかった。初めて家を購入する人間がどれ程用心深くなれるだろうか。自分を庇う訳ではないが、無理もない部分があったと思っている。

しかしその甘さが、以後何年も私たち一家を苦しめることになった。