猫は、当初思っていたよりも多いことがわかった。いつの間にベランダに枕がいくつか置かれていて、その上に猫が寝るようになっていた。大抵は用心深いがまったく馴れているのもいて、窓を開けているとこっそり入ってきて、仕事をしている私の椅子の後ろにちょこんと座っているような猫もあった。触っても怒らないでじっとしている。
そういうのは可愛いので入ってきてもそのままにしていた。一匹入ってくるとゾロゾロ続いて入ってくる事もあったが、そいつ等は近づくと出ていく。馴れている猫はおとなしくて抱えることができるので外出するときも困らなかった。掴まえて 窓から出せるのだ。どうしてそんなに馴れているのか知らないが可愛いのでそんな生活がしばらく続いた。下で餌をもらっているだろうから私がそれをすることはなかった。
するとある日を堺に、ピタッと来なくなった。近くに来なくなっただけじゃなくて付近にも見当たらない。似たような猫がもう一匹いて、そいつもかなり懐いた。仕事をしていると勝手に入ってきて部屋の様子を窺うようにしていたが適当なところに座ってくつろいでいる。そんなことが何度かあったが、やっぱりその猫もある日を境にまったく見なくなった。
しばらくしたとき、部屋のなかに煤が入ってくるのに気づいた。そろそろ寒くなって窓を閉め切っていたのにどこから入ってくるのか、糸を依ったような煤が上から降ってくる。どこかで何かを燃やしているような臭いがしていたと思うが、もうはっきりとは覚えていない。しかし全体が煙っているとかではなくて、細い糸のように落ちてくる。
私はイラストや図面を描いていたが、当時はアナログなので紙に描いていた。その上に落ちてきた煤が漂っていた。当然かなり神経質になった。作業を没にしてしまう可能性もあった。
だが結局煤の正体はわからなかった。大家をに訊けばよいのだが、なんとなく訊きにくかった。一家は妙な雰囲気だとそろそろ思い始めた。大声で怒鳴るのは多分娘だと思われたが、一日家に居るのはこの娘だけだけのように思われた。
一応の推理はした。多分猫用のシートとか枕とかを古くなった順に燃やしているのだろうと。しかしどこで燃やしているのかはわからなかった。そもそも自宅で燃やすことがあるだろうか。細い路地を挟んで民家やアパートが並んでいる。洗濯物にも付着するだろうし苦情は出ないのだろうか。
煙も何もないのに煤だけが落ちてくる。今から思えば奇妙だが、そのときはなんだろうと思う程度だった。しかし何かが焼ける臭いは、ちょっとあったように記憶する。
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