裏の顔があったって別にそれが直ちにどうということはない。その人の中で完結していて誰に迷惑をかける訳でもない場合、それは何等の問題もない。
しかしながら、表からは見えない面が一定の、或いは特定の個人にだけ向いてくるのが時として見られて、これはまことに気味が悪いのだ。
誰だったか忘れたが、主人公を演じたのは有名な女優だった。まったく情けないことにタイトルも忘れた。確かテレ東でかなりの昔にぼんやり見た洋画だ。主人公は、ある時から突然知らない男に付きまとわれて、汚物が徐々に神経に浸透してくるような嫌がらせを受ける。男は家庭では子煩悩な良き亭主を演じている。それが表の顔だ。その被害は周りには全然伝わらない。苦労してその証拠になるような男の声と嫌らしい言葉を録音し、その家庭を突き止めて男のカミさんに聴かせる。カミさんは荷物をまとめて逃げた。----そんな話だった。ネットを調べてみたが探し出せない。
某美術団体に所属していた時、そこの委員から電話があった。会の創立期からの中心メンバーで、こっちはなりたてのスカウトされた会員だから無下にもせず応対した。最初は取り留めのない話だった。会についての意見や不満があれば私に言って--とかだった。しかし徐々に変わり始めた。どうやら何かの団体に所属していてしきりに参加をするように言い始めた。相手は女性だ。だからやんわりと対応していたのだがいつまでもしつこい。遂にこちらも腹を立てて最後は強い口調になってしまった。いきなり電話をしてきてその言い分は失礼じゃないかと言えば、そんな言い方をしたら、こちらも覚えておくからね--と言っていた。ぞっとする話だ。
委員がこのようなことでは困ると会に苦情を言ったが、実はこの女性、他の人には全くこのような面を見せていないようだった。会は私の話を信じなかった。会では別の顔なのだ。しかしひょんなことから、同じような電話を受けたという人が現れた。それである程度の証明にはなったのだが、本人への注意はなかった。
面白い後日談がある。ある時デッサン会のモデルさんがこの女性を知っていた。モデルさんによると、どうやら彼女は世間でも有名なあの宗教団体のメンバーだった。会を利用して会員を勧誘していたようだ。
限られた人にだけ別の顔を見せる人がある。まったく、これはホラーというしかない。映画ではなく、現実のホラーだ。
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