かような状態だから居心地が良かろうはずがない。しまったなあとは思った。だが眼の前には仕事があり、当時は本当にチェーンワーキングとでもいうのか、次から次への仕事に追われてズルズルと日々を送っていた。
前の住人は板前さんだったというが、殆ど部屋にはいなかったらしい。そんな人の方が良いのだと大家からの条件だったそうだ。それを不動産屋が押し切った。いいんだよ入っちまえば…。その時は深く考えなかった。その事情は前に述べたが、こうしてみるとやっぱり訳アリだったのだ。
前住人が部屋に何を置いていたのか知らないが、真ん中の三畳間には、一か所畳に強いへこみがあって、その部分がラッパ型に開いたようなへこみになっていた。ここに一体何を置いていたのかと思ったが、それ程気にはしなかった。これも、入る時にもっと点検して大家に言うべきだった。最後にこの件で大家に恩着せがましく言われることになった。
がしかし、精々この程度なら、不快ではあるが我慢できないこともない。こんなとき、人はそういうバイアスをかけ始める。自分もそうなっていた。銭湯の帰りに大衆食堂でビールをやりながら、周りは下町っぽいし何でも手の届くところで買えるし、住環境そのものは悪くない。部屋からは巣鴨の商店街も近いし、もとより大塚の駅前も賑やかだ。どこへ出るにも近い。慣れればこれはこれで快適だ、時折入ってくる煤はちょっと気味が悪いが、どうしてもという時はまた別を探そう、そんな風に思い込ませつつあった。
そうしているうちに、奇妙なことが起きたのだ。
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